昇華転写の基礎
できること・できないことを、実演で解説
「昇華転写って聞いたことはあるけれど、実際どういうものかよく分からない」。これからプリントを始めたい方と話していると、本当によくいただく声です。分からないまま昇華プリンターを買ってしまうと、「思っていたものと違った」というトラブルになりかねません。
この記事では、昇華プリンターを販売しているクイックアートが、昇華転写でできること・できないことを、実際にプレスしながら解説します。温度は何度でもいいのか、時間は長いほうがいいのか、といった細かいところまでお伝えします。

- 昇華転写は、熱で気体になったインクがポリエステルの繊維の中に入り、生地を染めるプリント方法
- そのためポリエステル専用。綿には定着せず、洗濯で落ちる。おすすめはポリエステル100%
- 布へのプレスは180〜200℃・60秒が基本。長くすると色がくすむので、時間は延ばさない
- 原価は1枚100円を切るほど安い。ただし得意なのは白(淡色)のポリエステルと、マグカップなどの雑貨
- 色付きの生地や綿など、いろいろな生地に刷りたいなら白トナー転写が現状は有利
昇華プリンター・昇華転写とは
インクジェットプリンターのインクには、一般的な染料インクや顔料インクのほかに、昇華インクという種類があります。この昇華インクを積んだインクジェットプリンターを昇華プリンターと呼びます。A4サイズの小さなものから、大判のものまであります。

昇華転写は、昇華プリンターで昇華転写用のシートに印刷し、そのシートを生地に重ねて熱プレスで転写する方法です。
「貼る」のではなく「染める」
- 180〜200℃でプレスする転写シートを生地に重ねて、高温でプレスします。
- インクが気体になる高温になると、シートの上の昇華インクが気化します。
- ポリエステルの繊維が開き、奥にインクが入る同時にポリエステルの分子がゆるみ、気体になったインクが繊維の中に入り込みます。冷えると閉じ込められます。
インクが生地の表面に乗るのではなく、繊維の中に入り込んで染める。これが昇華転写の独特なところで、染めたような仕上がりになるのが一番の長所です。
なぜポリエステル限定なのか
昇華インクが入り込めるのは、熱で分子がゆるむポリエステルの繊維です。綿の生地に同じやり方で転写しても、色が写っているように見えるだけで定着していません。つまり、洗濯すると落ちます。
「綿に昇華転写」という言葉もよく見かけますが、実際には綿の上に樹脂を塗ったり、パウダーを使ったりと、ふつうの昇華転写とは別のやり方です。詳しくは「綿に昇華転写」の本当の意味で解説しています。
昇華インクは透けるインクなので、生地の色の上に色を重ねる形になります。白い生地では鮮やかに出ますが、黒や濃い色の生地では色が出ません。昇華転写が「白のポリエステル」を前提にしているのはこのためです。
実演① 使う前のノズルチェック
昇華インクはふつうのインクより粒子が大きいため、プリンターのノズルに詰まりやすいと言われています。そこで、1か月以上電源を入れていなかった昇華プリンターで、どれくらい詰まるか試してみました。


1か月ぶりの印刷は、少しムラがあるかな、という程度でした。その後ノズルチェックをすると、線がきれいに出ていて、クリーニングの必要もありませんでした。
- 電源を入れたら、まずノズルチェック(動画では順番が逆になりましたが)印刷の前に、必ずノズルチェックのパターンを印刷してください。
- 線が欠けていたらクリーニングノズルが詰まっていると、チェックパターンの線がきれいに出ません。そのときはクリーニングをしてから印刷します。
実演② 温度と時間はどう決める?
温度は180〜200℃、一般的には200℃が推奨です。今回使ったプレス機は最高199℃なので、180℃・190℃・199℃の3つで、白のポリエステル生地に転写して比べました。時間はすべて60秒です。



並べて比べると、温度が高いほうが色がはっきり出ていました。差はわずかですが、迷ったら推奨どおり200℃近くで刷るのがおすすめです。
時間は「60秒固定」。長くしても良くならない
「1分半くらいにしたほうが、しっかり染まるのでは?」と聞かれることがあります。答えは60秒固定で間違いありません。時間を延ばすと、逆に色がだんだん暗く、くすんでいきます。実際に試していただくと分かりますが、ベストの色味は60秒です。
| 条件 | 布への昇華転写の目安 |
|---|---|
| 温度 | 180〜200℃(一般的には200℃推奨) |
| 時間 | 60秒。長くすると色がくすむ |
| 圧力 | それほど強くなくて大丈夫 |
実演③ 4つのカラー設定の違い
当社で販売している昇華プリンターには、標準のほかにビビッド・ダーク・ライトのカラー設定があります。199℃・60秒に固定して、設定だけを変えて転写しました。


| 設定 | 仕上がり | 使いどころ |
|---|---|---|
| 標準 | 基本の色味 | まずはこれ。ほとんどの場合これで問題なし |
| ビビッド | 発色が強く、明るくなる | 黄色などをもっと鮮やかにしたいとき |
| ダーク | 少し暗く、濃くなる | 色を濃くしたいとき |
| ライト | 少し薄く、明るくなる | ビビッドほどではないが明るくしたいとき |
正直に言うと、見た目の差は分かりにくい程度です。RIPソフトである程度正確に色を管理できているので、色についてのご相談は比較的少ないです。写真データはPhotoshopで明るさを調整する方法もありますが、イラストレーターで作ったパスデータの色をボタン1つで変えたいときに、この設定が役立ちます。
※他のお客様の声でも、運用はほとんど標準モードで問題ないようです。
昇華プリンター選びで注意したいこと

実は当社も以前、1万5,000円ほどのプリンターに昇華インクを入れて販売していたことがあります。ところが、ノズル詰まりや印刷かすれが多く、お客様に大変ご迷惑をおかけしてしまいました。
これはプリンターそのものが悪いのではありません。昇華インクの粒子が大きく、ノズルが細いプリンターとは相性が合わなかったのです。クリーニングで一時的に直っても、相性の合わない組み合わせを使い続けるのは難しいものでした。当時は当社も知らなかったことで、だからこそ、これから昇華プリンターを選ぶ方にお伝えしたいことがあります。
※当社が現在販売している昇華プリンターも同じく「A社+B社」の組み合わせですが、運用の実績を確認したうえでご案内しています。
昇華転写のいいところ(原価と仕上がり)
原価が安い
| 費用 | 目安(2020年10月の動画公開時) |
|---|---|
| 昇華転写シート | A4 1枚 約30円 |
| インク代 | 約30円。初期費用が安い分、インクは少し高め |
| 1枚あたりの製造原価 | 100円を切る |
※金額は2020年10月の動画公開時の目安です。インクの価格によって変わります。
仕上がりが自然で、きれい
生地そのものを染めているので、くしゃっと握っても、プリントを貼った感じがまったくありません。やわらかく、違和感がないので、タオルなどにも使われています。白のポリエステル100%なら、昇華転写が一番きれいだと思います。

昇華転写に向いているもの・向いていないもの
ウェアなら「白のポリエステル」でスポット的に
これからウェアプリントを始める方に考えていただきたいのは、白のポリエステル生地だけで商売していけるかということです。実際には、赤のポリエステル、青の綿、黒など、いろいろな生地へのプリントを頼まれます。多種多様な生地に刷りたいなら、現状は白トナー転写が有利です。昇華転写は、白のポリエステルの注文が来たときのスポット的な対応が向いていると考えています。
なお、薄い水色・薄い赤・ピンクなどの淡い色のポリエステルなら、転写自体は基本的にできます。生地の色の影響は受けるので、実際に試してから判断するのがおすすめです。
いちばん多いのは、衣類以外のグッズ
昇華転写が実際によく使われているのは、衣類以外のアイテムです。表面にポリエステルコーティングをした専用のアイテムに転写すると、染めた仕上がりになり、洗っても大丈夫です。
昇華転写に対応したアイテムの例
マグカップは多くが昇華転写で作られています(マグカッププレス機は2万5,000円程度)。アイテムは「昇華転写 + 品名」でネット検索すると、意外と多くのサプライヤーが見つかります。

業界全体で「昇華」と言うとき
業界で「昇華」とよく聞くのは、旗や横断幕など大判の印刷や、大判の布に昇華印刷してからカット・縫製する全面昇華の衣類の話であることが多いです。小規模にウェアプリントを始める方は、白のポリエステルTシャツ、マグカップ、スマホケースなどのグッズを自分で作って売るイメージで考えてください。
昇華染料で染めた生地に、白トナー転写などの熱転写を重ねると、下の色が浮き上がってくるブリード(再昇華)が起きます。詳しくはブリード(再昇華)を徹底解説をご覧ください。
よくある質問
- 昇華転写は綿のTシャツにもできますか?
- 昇華インクは綿の繊維には定着しません。転写直後は色が乗っているように見えても、洗濯すると落ちてしまいます。クイックアートではポリエステル100%の生地をおすすめしています。
- 昇華転写の温度と時間は何度・何秒ですか?
- 布の場合、温度は180〜200℃(一般的には200℃推奨)、時間は60秒が基本です。長くすると色が暗くくすむので、時間は延ばさないでください。圧力はそれほど強くなくて大丈夫です。
- 黒いポリエステルのTシャツに昇華転写できますか?
- 昇華インクには白がなく、生地の色の上に色を重ねる形になるため、黒や濃い色の生地では色が出ません。濃色の生地には白トナー転写などの方法が向いています。
- 昇華プリンターは電源をずっと入れておかないといけませんか?
- 当社で販売している昇華プリンターは、1か月電源を切っていても問題ありませんでした。入れっぱなしにする必要はありません。使う前に必ずノズルチェックをしてください。
- Tシャツに転写したら、背中側にも色が写ってしまいました。
- インクが前身頃を突き抜けて、後ろ身頃に転写されています。Tシャツの中にアルミ板などの下敷きを入れてからプレスしてください。
この記事のもとになった動画
【実演】昇華転写について説明します(約16分・2020年10月30日公開)
昇華と白トナー、どちらが合うか
作りたいものから一緒に考えます
昇華プリンターと白トナープリンターの両方を扱うクイックアートが、実際に刷っているスタッフの目線でお答えします。
東京・大阪・福井でのデモ体験、オンラインでの個別説明も受け付けています。
メーカーの売り文句ではなく、現場で刷って、売って、サポートしてきた事実だけをお伝えします。


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